![]() 「嫌な奴」 fromAlbum「水中物語」 すでに生産中止になってしまいましたが、 かつてのDJプレイの必須アイテムだったターンテーブルTechnics SL-1200。 以前、その発売30周年記念イベントで一人のベテランDJがプレイ前に、 マイクで何やら青臭い説教じみたことを喋り始めました。 その青臭さに興醒めした次の瞬間、 一発目にスカーフェイスの「Mind Plays Tricks‘94」がかかり、 興奮した私は気が付くとステージの最前列まで詰め掛けていました。 (ちなみに次のプレイ曲はジェルー・ザ・ダマジャの「Come Clean」) 「Mind Plays Tricks‘94」は元々「Mind Plays Tricks On Me」として スカーフェイスが在籍していた米国ヒューストンのラップグループ、 ゲットー・ボーイズのアルバム「WE CAN'T BE STOPPED」収録曲。 彼らの歴史は長く、多少の出入りはあったが基本メンバーは3人。 強面でグループの中心のスカーフェイス、女たらしのウィリーD、 そして小人病ゆえに一目見ただけでで目が釘付けになる、 自他共に認める小さな巨人、ブシュウィック・ビルから成り、 ノーリミットよりも、キャッシュマネーよりも、 TIよりも、ネリーよりも、アウトキャストよりも遥か昔、 アメリカ南部テキサスの地元レーベルRap-A-Lot Recordsで デビューしていた彼らこそ元祖ダーティ・サウス。 私が彼らのことをまだ全く知らなかった頃、 たまたま観た何かのテレビ番組で、 ブシュウィック・ビルが「恋人に撃たれた」か「自殺未遂」だったかの トラブルを起こし目に銃弾を受けたニュースが流れました。 テレビにショッキングなジャケットそのまんまのゲットーボーイズが登場し、 特に小さな巨人ブシュウィック・ビルが虚勢を張って、 わめき散らしていた映像が未だに恐怖の記憶として 私の脳裏に焼き付いています。 そして目に銃弾を受けた彼を、 スカーフェイスとウィリーDが病院内を担架で運んでいる写真が、 巷のお笑い芸人の流行言葉で、 「不幸を笑いに代えることで浄化される」といったレベルを遥かに超えた、 周囲ドン引き、露悪的かつ悪趣味なアルバムスリーブとなったのです。 そんなゲットーボーイズのアルバムを以下順に紹介します。 「MAKING TROBLE」(88年) もろ初期デフジャムのリック・ルービン・サウンド。 LL COOL Jと比べるのは酷だが 現在の耳で聞くとサウンド&ラップ共にチープさは否めず、 初期デフジャムサウンド独特のビートを倣った"間″も、 何やら気まずい空気を感じてしまう次第。 「THE GETTO BOYS」(89年) 西海岸ギャングスタラップ寄りサウンドにシフトチェンジ。 1曲目から「Fuck up em」と飛ばしまくり、 3曲目で「Gangster of love」と自ら宣言。 こちらもN.W.Aと比べるのは酷だが、現在の耳で聞くとビートの疾走感と、 サウンドプロダクションの劣化は否めない。 ただし前作程の古臭さは感じず、 逆に"勢い″故のサウンドとラップの一体感あり。 同時期に出た「Grip It! On That Other Level」は未聴だが、 米国ヒップホップ専門雑誌「The Source」でマイク5本(=歴史的傑作)獲得。 「WE CAN'T BE STOPPED」(91年) ZAPP、Pファンク中心のサンプルネタがより前面に押し出されたことで、 前2作までの一本調子なサウンドから開放される。 当時、東ではエリック・サーモン、西ではDr.ドレーの サンプルネタ使用が印象に残るZAPPの大ネタ「Dancefloor」使いで、 ギャングスタラップの18番、ビートに機関銃の発射音を混ぜ、 アルバム中最もテンション高めにライムするM3「We can't be stopped」 恐怖感を煽るホラーチックなSEを随所に挟み、 小さな巨人ブシュウィック・ビルが、 自身をホラー映画「チャイルドプレイ」に登場する殺人鬼人形チャッキーに 見立てチープなビートに乗ってライムするM5「Chuckie」。 そして本アルバムの白眉M6「Mind Plays Tricks On Me」は、 ビルボードHIP-HOP/R&Bチャートで最高五位獲得。 裏方からパフォーマーまで、黄金期スタックスレーベルを支えた サザンソウルのアイコン、アイザック・ヘイズの「walk on by」使いの レイドバックした緩いビートのトラックは、 東西ヒップホップとは一味も二味も異なり、 ダーティーサウス産ヒップホップの礎と呼ぶに 相応しいオリジナリティ溢るる作品。 死に憑りつかれた己を呪うかのようにラップするスカーフェイス。 「大金稼ぎ」「高級車を乗回し」「まるで映画スターのように」 「誰もが俺を知っている」と嘯きながらラップするウィリーD。 ヒスパニッシュ系?の巻き舌訛りでラップするブシュウィック・ビル。 最近ブッシュJr元大統領の自伝を斜め読みした時、 彼は地元テキサスのイメージを「土埃(ぼこり)」と 例えていましたが、正にそんな「土埃」漂うサウンドは、 ダーティーサウスの原型とも言うべき楽曲で、 この後、8ボール&MJBやアンダーグランドキングへ 継承されていくことになります。 この後も基本ギャングスタ系ラップが並ぶアルバムで、 唯一爽やかで清涼感あるバックトラックとは裏腹に、 恐らく目覚めてすぐ女にかけた電話のエロトークを そのままライムするウィリーD。 曲間に女の喘ぎ声を挟み、まるでテレフォンセックスの様な 下品極まりないM11「Quickie」 ライブ会場録音で観客を扇動し、 スライ&ザ・ファミリーストーンの人種差別に対する反語的 メッセージタイトル「Don't call me niggar、wheity」を、 PunkとBichに替え歌し、実も蓋も無いアホ丸出しの悪ふざけで、 来場した男客と女客を互いに罵り合わせる、 でもビートが入ると俄然カッコいいM12「Punk-Bitch Game」 以上、 個人的にはダーティーサウスヒップホップと呼ぶには時期尚早ですが、 その萌芽と魅力たっぷりの作品であることには間違いはありません。 続いて「TILL DEATH DO US PART」(93年) これこそダーティーサウス・ヒップホップを確立した作品。 前作までの攻撃的なビートからスローダウンし、 ご当地産テキサスブルースに習い? ギターリフ使いのバックトラックが中心となる一方で、 大ネタ使いとアレンジの派手さが抑制された分、 サウンドが洗練され、逆にサウス色濃度を高めることに貢献。 前作迄の力んだ前口上と異なりIntroからしてダルでルーズ。 M2「G.E.T.O」で前作の攻撃的なビートからややスローダウン。 M3「It’Aint」はダルでルーズでブルージな、 ダーティーサウスヒップホップの真髄を見せる。 M6「Six Feet Deep」ではR&Bとブラコンの橋渡しとも言える コモドアーズ「イージー」のメロウなサンプルネタも、 ブルージーに料理するのは朝飯前。 以降もミッドテンポでダルにルーズかつタイトな楽曲が並びます。 「THE RESURRECTION」(96年) 個人的には一番好きなアルバム。 その中でも、いったん解散した個性的な3人が再び集い、 "復活"を高らかに宣言したM2「Still」は出色の出来。 (ひょっとするとDr.ドレーの復活作「2001」収録の「Still Dre」の コンセプトはこっからインスパイアされているかも・・・) この曲でブシュウィック・ビルは「Mind Plays Tricks On Me」で 使ったラインを再びライムに挟み込み、 これ迄は3人各々がラップするための独立したパートが確保され、 良く言えば互いの個性を際立たせ、 悪く言えばグループとしてのコンビネーションが薄い、 そんな印象があったが、 「Still」に関しては3人各々が短いセンテンスでライムを 被せ合い&せめぎ合いながら、 大きなビートのグルーブに乗って、 かつて無い程に空間的でシアトリカルな楽曲に仕上がっている。 パンチライン「die muthafucka, die muthafucka still fool」で 思わずアドレナリンが上昇してしまうのは私だけでしょか? 「DA GOOD DA BAD & DA UGLY」(98年) クリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督、 エンリオ・モリコーネ音楽のマカロニウエスタンの代表作 「続・夕陽のガンマン」の英題を拝借。 当時サウスで猛威をふるった、マスターP率いるノー・リミット・レコードや、 マニー・フレッシュがバックトラック製作を一手に引き受けていた キャッシュマネーレコードの影響を受けバウンスビートを導入。 音楽的評価もチャート的にも成果をあげることが出来なかった模様。 「THE FOUNDATION」(05年) くっついたり離れたりを繰り返していたゲットー・ボーイズ現時点での 最終アルバム。未聴。あまり市場で見かけないせいもあるが、 私自身何を躊躇する必要があるのか、正式に解散が決まるまで、 なんとなく購入するのを控えている一枚。 恐らくイーストコーストで一番好きなブランド・ヌビアンの 同名異作のこれまたリユニオン作品「THE FOUNDATION」が 期待するほど良くなかったことにも起因しているのかも? 一方で、本名ブラッド・ジョーダンの"スカーフェイス" (勿論アル・パチーノ主演の映画からとった芸名)は、 「MR. SCARFACE IS BACK」(91)を皮切りにソロ活動を活発化。 「THE WORLD IS YOURS」(93)ではヒップホップ・R&Bチャートで トップ10入りを果たしゴールドディスク獲得。 次に「Mind Plays Tricks 94」が収録された「THE DIARY」(94)も ゴールドディスクだけでなく、米国ヒップホップ専門雑誌「The Source」で マイク5本獲得。さらにビーフ中のNAS&JAY-Z、Dr.ドレー他豪華ゲストを招いた 「UNTOUCHABLE」(97)で全米プラチナディスク獲得。 続く「MY HOMIES」(98)を経て驚きのデフ・ジャム・サウスCEO就任(00)。 リュダクリスをスターに育て上げるという巡り合わせもあり、 音楽面だけでなくビジネスでも成功を収め、 サウスを飛び越えヒップホップ界の首領にまでのし上がる。 そして傑作の誉れ高い「FIX」(02)が全米アルバムチャート1位に輝き、 こちらもThe Source誌でマイク5本獲得。 余談だが長いヒップホップの歴史の中でThe Source誌がマイク5本の 評価を与えたのはRUN DMCの1stから始まり、新しくはカニエ・ウエストの 「My Beautiful Dark Twisted Fantasy 」までのたった45枚。 その45枚の中にゲットーボーイズで1枚、スカーフェイスで2枚 入っていると言う事実が、如何にスカーフェイスがヒップホップ業界から リスペクトされているかを物語ってる。 スカーフェイス曰く、若い頃はうつ病気味だったとのこと。 好きな音楽にツェッペリン、ピンクフロイド、 そしてヘビメタを上げており、驚くことにインタビュー中、 日本のヘビメタバンド、ラウドネスの名も挙げていた。 今まで数多ラッパーのインタビューを読んできたが、 白人ロック好きを公言するラッパーは滅多にいない。 嗜好は人それぞれだが、如何に彼の音楽的触覚が 固定観念から解放され全方位であるかを物語るエピソードだと思う。 そんなスカーフェイスの誰もが認める唯一無比な才能はリリック。 本来そこに説明を割くべきだが、四の五の言わず、 以下に彼のソロ版故に、全て彼自身の代表的なリリック 「Mind Plays Tricks 94」の日本版掲載の邦訳を記すことで 説明に代えさせて貰います。 「Mind Plays Tricks‘94」 俺は一人部屋に座り蝋燭が燃えるのを見つめる。 さあ、オンエアが始まるぜ。 夜眠れず、寝返りを打ち、蝋燭はまだ燃えている。 何も変わっていないけど時間だけが過ぎていく。 俺は自分自身を欺こうとしているのさ。 お袋は俺が悪い道を生きてるって言っているけど、 俺がスミス&ウェッスンのピストルを持っているのは、 成功した人間は狙われるし、 俺はあちこちから狙われているかも知れないからさ。 それで俺はクスリで目を覚まして、 ギャングスタだのアホ野郎どもから身を守っているんだ。 俺がダチだと思っていた連中も俺が成功しだしたら、 悪口を言う様になったし、俺が余所者を近付けなくなると、 なおさらデカい口開けてなんだかんだ言うんだ。 オマエが俺のたった一人のダチだと思っていたのに。 自分で俺自身の心を欺いていたんだ。 日記さんよ、 精神面でちょっとした問題を抱えているんだ。 何発弾丸があれば俺の頭は治せる? ちょい待ちな! 俺は人生を終わらせたくなる時もあるけど、 終わらせやしない。 何故なら全ての道は神様に通じるんだから、 その先にいる神様だけに感謝したいからさ。 俺の金は欲張りにじゃなく、 金を必要としている人にくれてやるのさ。 欲張りどもは俺が言った台詞に値札を付けて、 言葉のファッションショーを開こうとしているからさ。 もうすぐ世界は週末を迎えるっていうんで、 教会をオープンしてひと儲けを狙ってるんだ。 ブラザー・ジョンソンが追い出されたのもそれが理由さ。 俺は誰の後ろも歩かない。 人間はイカサマかも知れないからな。 自分で俺自身の心を欺いていたんだ。 毎日毎日どうしようもない気分になってくる。 まるで自分がラリッてるみたいだ。 筋道立てて考えることができない。 いつ殺されるかわからないから、 いつでも9ミリ口径のピストルを持ち歩いてるんだ。 ダチの頭をブッ飛ばされるかもしれないし、 自分のガキが大人に成るまで守ってやりたいからな。 今までは俺に本気になってくれない女ばかりだったけど、 最近俺の扱い方が解っている女を見つけたんだ。 でもアイツは母親のところへ帰っちまった。 またもや俺は嫌われ者さ。 俺は過去の遺物で、アイツは一人ぼっち。 アイツ自身の心に騙されていたんだ。 オマエの"糞精神″に一発お見舞い! 1991年から1994年に至るまで。俺の名はフェイス。 俺自身の心を欺いていたんだ。 他者を拒絶しながらも、ここまで矛盾に満ちた自分自身を 克明に語った歌詞を少なくとも日本の音楽で耳にしたことはありません。 巷に溢れる歌の「魂の叫び」とやらに、 微塵の心も動かされない今日この頃、 例えば私が「楽しい」と感じた時でさえ、 自分自身の不幸を覆い隠すため、 仮初に楽しいふりをしているのでは?と 出口の無い自問自答を迫る程、 スカーフェイスが自身に向けて呟く様にライムするパンチライン 「自分自身を欺く」には威力があるのです。 現在巷に溢れる歌は、 "歌″と歌っている本人が気持ち悪いほど同一化されています。 気持ちを込めた方が歌が巧くなり人に伝わるという、 通俗的かつ画一的な風説流布により、 俯瞰で自分と周りの状況を捉えることを避け、 思わず笑っちゃうくらい鬱陶しい感情を、 どいつもこいつも歌に注ぎ込んでいるのです。 そのくせ真に自分の醜い部分を表現することを巧妙に避けています。 「水中物語」収録の「嫌な奴」は一聴すると、 "嫌な奴″へ怒りをぶちまけているだけの歌に思われるかもしれません。 でもそこにはまず、 "嫌な奴″と感じてしまった経緯が語られ、 "嫌な奴″に対する周囲の鈍感さへの苛立ちが語られ、 "嫌な奴″を何とか貶めてやろうという企みが語られ、 結局独りよがりに終わってしまったというオチが語られます。 これは"嫌な奴″に対する「怒り」の感情をいったん取り出し、 何に起因し、どう展開し、どういう結果となったかを、 俯瞰で捉え直し、起承転結それぞれのパートに振り分けて、 出来上がった言葉をメロディーに乗せるため 再度組み替える作業をしているのです。 スカーフェイス同様、自身を一歩引いた目で捉えそれを歌に込める。 でも俯瞰で捉えた時、ポジティブに良い面ばかりを表現するには無理があり、 どうしてもネガティブな悪い面に頭がいってしまうのです。 故に彼がシンボリックなテーマとしての"死゛や゛破滅“について頻繁に ライムするのは深く共感できるのです。 「水中物語」 絶賛発売中 ![]() |
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